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パートナーが病めるとき、一緒に生きる選択ができますか?

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パートナーが病めるとき、一緒に生きる選択ができますか?

一生共に寄り添い、支え合うことを決めたパートナーが治療困難な病気になったとき、これまで築いてきた夫婦の関係に大なり小なり変化が生じます。
夫婦はもともとは他人。どこまで一緒に“闘病“というイバラの道を歩んでいけるのか。共に笑い、共に助け合い、パートナーを支えていく覚悟はできるのか。
夫婦について少し深く考えてみました。


新郎○○(新婦○○)、あなたは○○を妻(夫)とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?


誰もが聞いたことのあるこの台詞。
そう、これは結婚の誓いの言葉の一例です。この一節にある「病めるときも…」をテーマに、今回はALSで闘病中の小田重文さんの奥さんまゆさんにお話を聞かせていただきました。


intertview

ALSでもどうにかなる!
負けない!ポジティブ全開に!

職場も一緒。トヨタハートフルプラザ千葉に行くとお2人に会えます。
トヨタハートフルプラザ千葉/千葉市美浜区稲毛海岸4-5-1
TEL:043-241-1488 


お二人は結婚して10年になるご夫婦です。職場恋愛で結ばれ、二人のお子さんにも恵まれて、まゆさん曰く「それなりに幸せな日々」を送っていたそうです。
そんなとき、重文さんの体に異変が現れ始めました。


まゆさん「左手が動かしにくい、しゃべりにくさを感じる…、急にそう言われました。頑張り屋で負けず嫌いな人なので、私に言ってきた時は、よほど不安になっていたのだと思います」

重文さんとまゆさんのALSとのつきあい(闘い?)は、この時から始まることになりました。

重文さんの仕事は、車の整備士です。
レーシングカーの整備も行うベテランの整備士で、「天職」というほど仕事大好き人間の旦那さんです。それなのに、仕事に支障を感じるほど手の動きがどんどん鈍くなり、半年後に診断された病名は、ALS(筋萎縮側索硬化症)でした。

難病患者なら誰もが経験するであろう、診断後に襲いかかる猛烈な絶望感。明るく社交的な重文さんが、周囲を遮断して自分の殻の中に閉じ込もり、暗くなるばかり…。

当事者は確かに辛い。
周りが見えなくなって、動かなくなる恐怖に怯えて縮こまったまま時間が過ぎていく。
明るくて、子供のようによく笑う重文さんから、だんだん表情がなくなっていくのを傍で見ているしかできないまゆさん。
不安、憤り、悲しみ、もどかしさ…、当事者とはまた違う辛さでいっぱいだったはず。

現在、重文さん愛用のペルモビールは立つこともできるスーパー車椅子!


まゆさん「そうですね。思えばあの時が一番辛かったのかもしれません。知識も情報も不十分で、不安しかない状態だったから。
彼は、もう見るからにどん底で、心の落ち方のほうが病気の進行よりも早いくらいでした。
どうしたらいいのか誰に聞いてもわからないし、そもそも答えがないから向かう方向も見つからなくて…。
でも、そんな状況でも絶対にどうにかなる。大丈夫。病気には負けない。
どうしてだか、そんな強い思いが心の中にあって、私は意外と冷静だったと思います」

それは、確信できる何かがあったから?

まゆさん 「いえ、まったくそんなんじゃなく、根拠のない自信ですね(笑)。
ALSなら気管切開という生きる道があって、死んでしまうわけじゃない。まだ時間がある。どうにかできる。やれることはある。
究極にポジティブ思考に走ってました(笑)」

病人扱いしない。
対等な関係でいたいから。

落ち込んでいた重文さんが、生きることに前向きになれたのは、まゆさんの存在が大きいと思うけれど、きっかけも必要ですよね。

まゆさん 「私は労わるというよりも、このままじゃダメだと思って、いい加減にしな!自分だけが苦しいんじゃない!一人じゃないんだよ!ってぶちきれました(笑)」


スゴイ!その状況でブチ切れられるなんて(笑)
まゆさんの歯に衣着せぬモノ言いは、気持ちがいいくらいサバサバしていて話すテンポも自然と上がり気味になってきます。
そのせいか、まるで漫才のように突っ込んだり、笑ったり。
愉快とは言えない内容のはずなのに、不思議なくらい少しも暗い気持ちにならずに話が進んでいきます。


まゆさん 「夫が前向きになれたきっかけですか?
それは、同じ病気で闘病される患者さんとそのご家族のお陰だと思います。
その頃、同じ地域に住んでいる同病の患者さんを紹介してもらい、その方に会いに行ったんです。
ALSになって10年以上という患者さんですが、自分で介護事業所を立ち上げて、いつもスタッフに囲まれて、とにかく明るくて笑顔がいっぱい。
気管支切開してもこんなふうに生活していくことができるということを、目の当たりにして、私も夫もハッとしました。目の前が明るくなった感じでしたね。お子さんがウチの子供と同じくらいの年齢だったので、自然と家族ぐるみのお付き合いが生まれて、夫はすごくいい影響を受けたようです」


やっぱり、一人で抱え込んでいては追いつめられてしまうばかりなんですね。同じような思いを持つ患者さんやご家と出会うことは、前向きになれる秘訣かもしれません。
重文さんはそのあたりから立ち直ってきて、今では超がつくほどポジティブですね。


まゆさん 「そうですね。もともとストイックな性格で、何でも一つのことに夢中になる人なので、体に良いと思うこと、前向きになれることには、一生懸命に取り組んでいます。
やりすぎってくらい頑張ってしまうので、ハラハラすることもありますけど。
夫は感情が顔に出やすいから、落ち込んだり気持ちが下がっている時はすぐにわかるんです。
そんな時?
普通にしてます。病人扱い、まったくしてませんね(笑)
あんまり長く落ち込んでると、しっかりしろ!って怒ったり、労わったり気を使うこともなく生活しています」

犬の散歩は重文さん担当。愛車(車いす)のペルモビールで一人で外出も。

特別な生活をしているわけじゃない、
だから心のコントロールは自然まかせ

まゆさん自身が落ち込んだり、不安になったり、気持ちのコントロールがつかない時もあると思うけど、そんな時はどうやってケアされているのでしょう?


まゆさん 「自分の時間がもう少しほしいなって思うことはありますね。でも、ほんの少しあったらいいなというだけで、なくても気になるほどではありません。
今は職場も同じなので、ほとんどの時間、夫と一緒にいますが、それは自分にとって普通のことで特別なことではないんです。だから、嫌になるとかないですね」


一緒にいるのが普通。

まゆさんの一言が心に残ります。
病気の夫を抱えて大変で苦労している妻。
きっと、誰もが当たり前のようにそんなイメージを持つことでしょう。
病気になったのは悲しくて、辛いことだけれど、それが全てではなくて、むしろ生活の一部。
一緒に生きていくことに変わりはない。
まゆさんと話をしていると、その思いが伝わってきます。

ケンカしたり笑ったり、賑やかな小田家の日常は温かさで満ちています。
ちょいちょい、落ち込む重文さんを、子供たちがしっかりしろ!と怒った話には爆笑してしまいました。
難病=悲しみ。そんなフィルターを取り去ると、大切なことがよく見えてくるものです。
夫婦でいることは、苦しみの共有だけではないんでよね。
気負うこともなく一緒にいる。
それはまゆさんと重文さんご夫婦の当たり前なこと。特別なことではなく、一番自然な生き方。

一緒にいるのが普通。

その言葉の重みを身に沁みて感じます。

10年先も一緒に笑って、
一緒に暮らしています。

まゆさん、今、一番楽しいと思う時は?

まゆさん 「私も車が好きなんです。
それで、夫と車のことをあれこれ話している時が楽しいかな。
夫が病気になり、生活に手助けが必要だから側にいるという気持ちではないんです。
私が一番話したい相手が夫で、一番必要だと思うのが夫なんです。だから、一緒にいて苦労してるとか思ってないし、言いたいことも言ってます」


少し照れくさそうに話してくれました。
そして、「自分はそれほど強い人間ではない。夫と二人で一人前なんですよ」とステキな言葉を付け加えてくれました。


太くてがっしりとした木は丈夫で強いけれど、折れる時は裂けるようにポキリと折れてしまう。ゆらゆらと風になびかれながら、しなぐように立っている柳の強さを見習わないとね。

柳の心の話は、心理カウンセリングでも例えに使われることのある表現のようですが、私はこの話を祖母からよく聴かされていました。思えば、祖母は柳の心のお手本のような人で、少し、まゆさんと似ているかも。
まゆさんは自分を頑固というけれど、とても正直な人で、そして柳のように根を深く張り、困難に目を背けず、しなやかにかわしながら乗り越えようとしています。
これから先も、お二人はきっと変わらないのだろうと思わずにいられません。
夫婦という関係も柳のごとく。
環境やお互いの気持ちの変化に、時には身を任せるくらい柔軟でいたほうがいいのかもしれません。


ところで例えば10年後、お二人のどんな姿を想像しますか?

まゆさん「変わらないです。変わらず、2人で車の話をして笑ってる。病気とかALSとか、私たちに関係ないとは言えないけれど…。でもやっぱり関係ないんです」

夫婦は他人。
でも、だからこそ、結んだ絆は強くなるのかもしれません。
この先、どんなことが起こるかわからないのは皆同じです。
迷ったり、気持ちが揺れることがあった時こそ、しっかりと自分の心に聴き耳をたててみようと思いました。
意外と、思っていることとは違う声が聞こえてくるかも。
この人と一緒に生きたい。
そんな心の声が聞こえてきたら、迷うことなく気持ちのままにしてみましょう。
苦労かどうか、幸せかどうかは、自分の心が決めること。

まゆさん、重文さんからのメッセージです。

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Unique/Writing:Maeda Rie